コラム
せん妄とは一時的な認知障害を引き起こす疾患のことです。発症した場合、突然の言葉のつまりや認識障害、意識の混濁などが起こることがあります。
せん妄は治療を受けなくても自然に治まることがありますが、頻繁に発症したり、他の病気の可能性が考えられる場合は、医師に相談することが大切です。
この記事ではせん妄について症状や原因、治療などについて解説します。
目次
せん妄とは急性の意識障害の一種で、注意力や思考力の低下が主な症状です。せん妄は特定の条件下で引き金となる要因が発生することで発症します。
せん妄を発症すると次のような様子が見られます。
何かしら思い当たるきっかけがあってこのような様子が見られる場合、せん妄の可能性があります。
せん妄の主な症状は次のとおりです。
せん妄によって認知機能が低下し、うまく自分の周りの情報が整理できなくなります。
その結果以下のような症状が見られることがあります。
うまく自分の周りの情報が整理できないので、新しい記憶に関しても思い出せないことが増えます。
せん妄によって時間の感覚などもあやふやになりやすく、睡眠にも影響が及ぼされます。場合によって、以下のような睡眠障害の症状が出ることも。
感情の変動が一日の中で激しくなるのもせん妄の特徴のひとつです。数時間ごとに人格が変化する例もあります。感情の変動が激しくなる例は以下のとおりです。
集中力が低下し、目の前のことに対して持続して注意を払うことが難しくなります。その結果、以下のような症状となります。
せん妄により、場合によっては次のような幻覚や妄想が発現することもあります。
この場合、躁うつ病や統合失調症などから来る症状との判別が必要となります。
せん妄には確立した治療法はないものの、一般的に原因となる要因を取り除くことで、数週間ほどで落ち着きを取り戻しはじめる場合が多いといえます。
しかしせん妄が頻繁に発症する場合や、他の病気の可能性がある場合は、早めに医師に相談し、適切な治療を受けることが大切です。
せん妄と認知症は別の状態で、大きな違いは以下の3つです。
まずせん妄は発症が急で、きっかけがわかりやすい傾向があります。対して認知症は徐々に進行するもので、「いつ発症したか」が不透明です。
また治るか否かについてもせん妄と認知症は異なります。せん妄は上記の通り治癒しやすい反面、認知症は進行を遅らせることはできても失われた機能回復は基本的には不可能です。
さらに症状の出方も異なります。せん妄は注意力や思考力の低下が中心の症状となるのに対し、認知症は記憶障害が症状の中心となります。
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せん妄には次の3つの原因があります。
これらの因子が噛み合うことで、せん妄が発生します。具体的には直接因子となる出来事が起こった際、準備因子となる状況や促進因子となる環境が揃っていると、せん妄になりやすいのです。
出典:認知症とせん妄(日老医誌 2014;51:422―427 長谷川典子、池田学)
せん妄の種類は、大きく「症状による分類」と「原因による分類」に分けられます。ここではそれぞれの種類について紹介します。
症状による分類では、せん妄は以下の3つに分けられます。
過活動型せん妄は、行動量が増えるタイプのせん妄です。
具体的には次の4つの項目のうち、24時間以内に2項目が当てはまる場合は過活動型せん妄に当てはまります。
低活動型せん妄は過活動型せん妄とは逆の、行動量が減るタイプのせん妄です。
具体的には次の7つの項目のうち、24時間以内に2項目が当てはまる場合は過活動型せん妄に当てはまります。
活動水準混合型せん妄(混合型せん妄)は行動量の増減が激しいタイプのせん妄です。過活動型せん妄と低活動型せん妄の両方に24時間以内に当てはまる場合が活動水準混合型せん妄にあたります。
せん妄は原因によっても分類されることがあり、以下の4つに分けられます。
夜間せん妄は夜間に発症するせん妄で、高齢者に多く、生活リズムの乱れなどが原因で発症すると言われています。
夜間せん妄の場合は夜に不眠状態となるため、昼間はうとうととして落ち着いていることが多いのですが、その分昼夜逆転しやすいことも。
昼間に声をかける、散歩に連れ出すなどの働きかけが夜間せん妄へは有効です。
術後せん妄とは手術のストレスや、術後合併症などを引き金に起こるせん妄です。
入院や手術に対する不安が促進因子となるため、術前の十分な説明や家族との面会がせん妄の防止となります。また術後の早期のリハビリも重要です。
熱せん妄は主に子どもがなりやすいせん妄で、高熱時に幻覚や錯乱、異常行動が見られることが特徴です。
安心できる環境づくりや、解熱剤や保冷剤、氷枕などで体を冷やすなどの対処が有効です。通常は数時間で収まり、後遺症もありません。ただいつまでも症状が続く場合やけいれんなどが見られる場合は、脳への障害が疑われるので訴求に病院で受診しましょう。
振戦せん妄とは重度のアルコール依存症の方が禁酒をした際におこる、離脱症状のひとつです。ふるえ(振戦)や見当識障害、幻覚や幻聴が主な症状です。通常は短期間で回復しますが、脱水や栄養不足、糖尿病などの合併症がある場合は重症化することもあるため、十分に注意しましょう。
せん妄の治療方法は「せん妄因子の軽減」が主に行われます。因子の軽減で効果が認められない場合は、必要に応じて薬物治療が行われます。
因子の軽減の例は以下のとおりです。
部屋を明るくする、カレンダーや時計を見える位置に配置して見当識を取り戻すなどの環境を整える方法も有効です。
また薬物治療については、鎮静薬や抗精神病薬が主に使用されます。
せん妄が疑われるとき、入院中であれば担当の看護師や医師に相談しましょう。家庭でせん妄の症状が疑われるときは、一般病院の精神科医の診断の上、指示を仰ぎましょう。
せん妄の判断が遅れることで、治療に差し支える、病態が複雑化するなどの影響が出ることも。
せん妄の早期発見および介入が行われた患者に比べて、せん妄の治療が遅れた患者では死亡率・院内感染・肺炎のリスクが高まるとの報告もあるので、上で紹介した特徴を見逃さず早期発見と治療の開始が重要です。
この記事ではせん妄について、症状や原因、治療方法などについて紹介しました。
せん妄は比較的治りやすいものですが、高齢であったり認知症などの準備因子があったりするとほかの因子が発生したときにせん妄が再発することも。
有料老人ホームのスーパー・コートでは、五感を刺激して心の安らぎを取り戻す回想療法や園芸療法などを取り入れています。また知識を経験豊富なスタッフによる「長所を引き出すケアプラン」により、せん妄の原因となるストレスの低減をサポートします。
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監修者
花尾 奏一 (はなお そういち)
介護主任、講師
<資格>
介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
<略歴>
有料老人ホームにて10年間介護主任を経験し、その後「イキイキ介護スクール」に異動し講師として6年間勤める。現在は介護福祉士実務者研修や介護職員初任者研修の講師として活動しているかたわら、スーパー・コート社内で行われる介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成や試験官も務めている。