コラム
パーキンソン病は症状が悪化した場合は寝たきりになることもあるものの、症状の進行速度は個人差が大きいです。
「どのように症状が進行するのか知りたい」「進行の流れを抑えたい」と考えている方もいるのではないでしょうか。
そこで、症状が進行する流れや、代表的な症状を解説します。この記事を読むことによって各進行段階で気をつけておきたいことや運動合併症についてわかるようになるので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
パーキンソン病は、難病の一つです。
脳の中の黒質と呼ばれる場所には、ドパミン神経が存在しています。ドパミン神経は神経伝達物質であり、不足すると運動の調節がうまく行えません。その結果、発症するのがパーキンソン病です。
運動の調節ができなくなることで、日常生活に支障が出るようになります。例えば、無意識の震えが出たり、手足が動きにくくなったりするのが初期症状です。
症状が悪化した場合、寝たきりの生活になることもあります。
ドパミン神経が減少してしまうことによって発症することはわかっているものの、なぜ現象するのかについてはまだ大部分が明らかになっていません。加齢の影響もあり年齢とともに患者が増えますが、40歳以下で発症する若年性パーキンソン病もあります。
また、ほとんどのケースでは遺伝は関係ないとされているものの、若年性の一部は遺伝によって発生する可能性があります。
発症後、自然に良くなることはありません。徐々に症状は進行してしまいますが、適切な治療を受けることにより症状の進行を抑えられるほか、状態が改善することも期待できます。
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どのように進行していくのでしょうか。初期、進行期と進行していくことになります。それぞれの段階の症状や治療法などを解説します。
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発症してから3~5年程度までは、初期にあたります。この期間はハネムーン期と呼ばれており、治療薬が効きやすいのが特徴です。
そのため、初期のうちは1日を通して安定した状態を保ちやすくなります。
初期の治療は、内服をすることなく経過をみるケースも多いです。これは、生活や仕事に支障がない場合の話なのですが、早期に治療するメリットがあるとも考えられているため、特に生活や仕事に支障がなくても薬を服用することがあります。
初期に行われる治療は、65~70歳以上の高齢者にあたる方や、物忘れなどを認知症の症状がある場合はLドパを使用することが多いです。
L-ドパとは、脳内で不足しているドパミンを補充するための治療薬で、パーキンソン病の薬の中でも基本薬です。症状を改善する効果が大きいとされている一方で、治療の早期から多量に使用した場合は後述する運動合併症が現れやすいため、注意しなければなりません。
運動合併症のリスクが高いと判断された場合は、L-ドパの副作用を克服するために開発された「ドパミンアゴニスト」を使用するケースも多いです。またはドパミンを分解するMAO-Bという酵素の働きを抑える「MAO-B阻害剤」が使われることもあります。
ハネムーン期を過ぎて病気が進行した場合、徐々に薬の効きが悪くなってきます。
ある日突然薬が効かなくなるといったものではありません。ですが、一般的には長期間の服用を続けているうちに薬を飲んでしばらくは安定しているものの、数時間経つと症状が起こりやすくなります。
運動合併症と呼ばれるものが現れやすくなるほか、薬を服用しても効果が出ない、または効果が出るまでに時間がかかるといったケースも多いです。
進行期の治療では、薬の取り方を工夫することがあります。例えば、1回に飲む薬の量を減らして頻繁に内服するようにしたり、より効果が長続きする薬に変更したりするなどの方法です。場合によっては一人一人の症状に合わせて貼付剤のほか、注射剤を活用することもあります。
近年はデバイス治療と呼ばれるデバイスを使った治療を用いることも増えています。進行期まで進んだ場合は、それぞれの症状に合わせて治療を行っていく形です。
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パーキンソン病になるとどのような症状が現れるのでしょうか。症状は、運動症状と非運動症状に分かれます。ここでは、それぞれで代表的な症状を紹介します。
運動症状とは、パーキンソン病によって起こる運動障害によってもたらされる症状のことをいいます。代表的な運動症状は、無動、振戦、固縮、姿勢反射障害です。それぞれの特徴を解説します。
無動(むどう)とは、素早い動きが難しくなることをいいます。また、遅くなることに加え、動きが小さくなるのも特徴です。
体全体が動きにくくなるほか、顔の筋肉を動かしにくくなることから、表情を作るのが苦手になることもあります。
字が小さくなる小字症のも無動症状の一つです。
声が小さくなることもあり、何を言っているのか周囲が聞き取りにくくなることもあります。
振戦(しんせん)とは、震えのことです。特に寒いわけではなく、何もしていない時に勝手に手や足が震えます。
安静時振戦と呼ばれるものであり、何か作業をしている際などは震えが止まりやすいのも特徴です。パーキンソン病の症状の中では代表的なものであり、半数以上の方に症状がみられます。
固縮(こしゅく)とは、筋肉の緊張が強くなることにより、体が硬くなることをいいます。何かするために体を動かそうと思っても筋肉が硬くなっているためにうまくできません。
ただ、自覚しにくい症状でもあることから医師の診察を受けて初めて固縮症状が出ていることに気づくケースもあります。症状が徐々に強くなっていくのも自覚しにくい理由の一つです。
姿勢反射障害とは、身体を後ろに押された時に自然に足が出なくなる障害のことをいいます。バランスが保てなくなるため、転びやすいです。また、一度歩き出したら止まれない、ある臭いに体が前かがみになるなどの症状が現れることもあります。
非運動症状とは、精神症状のほか、便秘など、運動とは関わりがない部分の症状のことをいいます。非運動症状は運動症状よりも先に現れやすく、代表的な症状は以下の通りです。
脂漏性顔貌(しろうせいがんぼう)とは、顔が脂っぽくなる症状のことをいいます。パーキンソン病の非運動症状の原因は自律神経の障害によるものです。自律神経の障害が原因で体表の分泌物が多くなるために脂漏性顔貌につながることがあります。
嚥下(えんげ)とは、ものを飲み込むことです。パーキンソン病では嚥下障害によって口の中に食べ物が残りやすい、うまく飲み込めないなどの症状を感じることがあります。
これにより食事に時間がかかったり、むせやすくなったりすることも多いです。誤嚥性肺炎などの合併症につながる危険性もあります。
起立性低血圧は自律神経障害の一つであり、立ち上がった時や、起き上がった時に立ちくらみを起こすものです。特に長時間入浴をした後や食直後や飲酒後などに症状が現れやすくなります。
寝ている状態から起き上がる際は、一気に立つのではなく一度身体を起こして一呼吸置くなどの対策が必要です。また、貧血・脱水なども症状がある場合はこれらが関係している可能性もあります。
パーキンソン病では便秘の症状を感じる方が非常に多いです。これは、自律神経障害によって腸が十分な働きを果たさなくなるために起こります。
一般的な便秘の解消法と同様に水分を摂取して便をやわらかくする、食物繊維を摂取して便のかさを増やすなどの対策が効果的です。また、腸内環境が悪化していると便秘になりやすいので、発酵食品などを取り入れて町内環境を改善していくことも欠かせません。
症状が重い場合は便秘薬を取り入れることもあります。ただ、便秘薬は種類が多いため、商品を選択する際は自分の症状に合わせたものを選ばなければなりません。漢方薬などの選択肢もあります。
パーキンソン病は排尿障害を感じる方が多いです。例えば、トイレに行ったばかりなのにまた行きたくなる頻尿、排尿困難、失禁、残尿感などが挙げられます。
頻尿によって何度も夜中にトイレに起きてしまい、十分な睡眠が取れなくなることも多いです。
また1度失禁してしまうと、それが不安な気持ちを生んでしまいます。失禁経験のある方は、おしめのほか、厚手の専用ナプキンなどもうまく活用してみると良いでしょう。
本人だけではなかなか対応できず、家族の助けが必要になるようなことも多いです。
可能であれば、普段生活している場所からトイレまでをバリアフリーにしてスムーズにトイレに足を運べるようにしましょう。
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進行期では、運動合併症と呼ばれる症状が現れることがあります。
いくつかありますが、代表的なのは「ウェアリングオフ現象」と「ジスキネジア」です。それぞれ解説します。
ウェアリングオフ現象とは、治療薬を飲んだ後は症状が良くなるものの、2~3時間程度経つと薬の効果が切れてしまう現象のことをいいます。これにより、手足が震えたり、歩幅が小さくなったりします。
他にも、動作がゆっくりになる、うつのような症状が現れやる気が出ない、気持ちが落ち込むなどが代表的な症状です。パーキンソン病の治療において基本薬であるLドパを何年も服用し続けた場合に起こりやすくなります。
一日のうちで薬が効いている時間帯は「オン」、効いていない時間は「オフ」と呼ばれ、これらが何度も繰り返されるのが特徴です。原因は、病気が進行したことにあります。
発症して初期のうちは治療薬であるLドパを服用すると脳内のドパミン神経に保存され、徐々に使用されるため、効果を長続きさせることが可能です。
しかし、病気が進行したことによってドパミン神経が減少するとドパミンの保存が難しくなり、次の薬を飲む前に効果が切れて症状が現れてしまいます。薬を飲む量とタイミングを調整するなどの対策が取られることになります。
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ジスキネジアとは、治療薬であるL-ドパが効いている時間帯に勝手に手足が動いてしまう症状のことをいいます。一般的には先にウェアリングオフ現象が見られるようになり、その時期から少し遅れてジスキネジアが見られるようになることが多いです。
ジスキネジアの症状は個人差があり、症状が軽い場合は本人では気づけないことがあります。家族など、近しい人から指摘され、気づくことも珍しくありません。
ただ、周囲から見ると体がくねくねと動いている状態になるため、特に外に出る際などに気になる方が多いです。
踊っていように見えるほど動いてしまうこともあります。
当然ながらこのような状態になれば疲れもたまります。自分では動きをコントロールできないので、転んでしまうことも多いです。
原因として、ウェアリングオフ現象を抑えるために薬を増やした結果、ドパミン神経が処理できる能力を超えてしまうことが挙げられます。
ジスキネジアが見られた場合でも、本人が自覚しないほど軽度なものであれば、治療をしないことも多いです。ですが、動きが大きくなっているような場合はジスキネジアにつながっている薬剤の減量などを検討することになります。
いかがだったでしょうか。パーキンソン病が進行していく流れや、現れやすい症状について解説しました。どのようなことに気をつけるべきか、どういった運動合併症があるのかご理解いただけたかと思います。
パーキンソン病と診断された方は、症状の進行について理解しておくことで前もって対策などを考えやすくなるでしょう。
スーパー・コートでは有料老人ホームや高齢者住宅を提供しています。パーキンソン病専門住宅も運営しており、ご入居者の運動機能の維持や生活の質の向上を目指した取り組みにも力を入れているので、ぜひご相談ください。
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監修者
花尾 奏一 (はなお そういち)
介護主任、講師
<資格>
介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
<略歴>
有料老人ホームにて10年間介護主任を経験し、その後「イキイキ介護スクール」に異動し講師として6年間勤める。現在は介護福祉士実務者研修や介護職員初任者研修の講師として活動しているかたわら、スーパー・コート社内で行われる介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成や試験官も務めている。