コラム
「パーキンソン病にいい食べ物ってあるの?」などの疑問を抱いていませんか。予防などを目指して食事にこだわりたいと考えている方もいるでしょう。最初に結論を示すと、これさえ食べればパーキンソン病を予防、改善できるといった食べ物は見つかっていません。ここでは、一般的に控えたほうがよいといわれている食べ物、積極的に食べるほうがよいといわれている食べ物を紹介しています。毎日の食事を見直したい方は参考にしてください。
目次
パーキンソン病は、中脳にあるドーパミン神経細胞が減少することで、生成されるドーパミンが不足し、体の動きに障害が現れる病気です。ドーパミンは、運動機能の調整や意欲、幸福感、学習といった脳機能に関わる神経伝達物質です。パーキンソン病では、この神経伝達物質が不足することで、運動機能を調整するための脳の指令が筋肉にうまく伝わらなくなります。その結果、安静時の震えや筋肉のこわばりなど、さまざまな症状が現れるのです。
残念ながら、現在のところドーパミン神経細胞が減少する正確な理由は分かっていません。遺伝や加齢などの要因で、神経細胞の中にαシヌクレインというタンパク質が凝縮、沈着することによる異常だと考えられています。
ちなみに、パーキンソン病は、50代~60代で発症する方が多い病気です。年齢を重ねるとリスクが高まると考えられています。65歳以上の有病率は1%です。高齢化の進展に伴い、患者数は増加すると予想されています。
パーキンソン病の具体的な症状は患者さんにより異なります。特徴的な運動症状は次のとおりです。
運動症状の名称 概要
安静時振戦 安静にしているときにふるえが生じる。片側の手や足から症状が出始めることが特徴。動くとふるえはとまる、または軽減する。
動作緩慢 動作が遅くなったり、自然な動きが少なくなったりする。たとえば、歩くスピードが遅くなる、歩幅が小さくなる、表情が乏しくなるなどがあげられる。
筋強剛 筋肉がこわばって固くなる。他者が関節を伸ばしたり曲げたりすると、歯車が噛み合うような抵抗を感じる。
姿勢反射障害 体のバランスを保ちにくくなる。立ち上がるときや歩いているときなどに転倒しやすくなる。
これらに加え、次の非運動症状なども現れます。
【非運動症状】
便秘や嗅覚障害などの非運動障害は、運動症状の前に現れることが分かっています。パーキンソン病は、さまざまな症状を呈する病気といえるでしょう。
関連記事:パーキンソン病にみられる4大症状と初期・中期・末期症状の特徴
パーキンソン病の原因は分かっていないため、摂取するとパーキンソン病になると解明されている食べ物はありません。ここでは研究などによって原因になる可能性があるといわれている食べ物を紹介します。
一部では、動物性脂肪を多く含む食べ物の摂りすぎは控えるべきと考えられています。ドーパミン受容体の機能が低下する可能性があるためです。正確な影響は分かっていませんがリスクを遠ざけたい方は摂りすぎに注意するとよいかもしれません。
(参考:新潟県医師会)
また、脂質摂取とパーキンソン病のリスクの関係性を調べた研究もあります。同研究で、アラキドン酸とコレステロールの摂取がパーキンソン病のリスクの高まりに影響する可能性が示されています。アラキドン酸は卵黄、豚のレバーなどに多く含まれています。
(参考:愛媛大学医学部)
農薬が残留している食べ物も控えるほうがよいと考えられています。過去に行われた研究で、農薬暴露がパーキンソン病発病の危険因子のひとつと結論づけられているためです。具体的には、アンケート調査によって、パーキンソン病の方に占める農業従事者の比率や、農薬の暴露の頻度が高いことが分かりました。ちなみに、ドイツ連邦リスク評価研究所は、約250文献を評価したうえで、農薬暴露とパーキンソン病は関連があるものの因果関係はないと判断しています。
(参考:CiNii Research)
(参考:食品安全総合情報システム)
砂糖を大量に含む食べ物の摂りすぎも控えるほうがよいといわれています。砂糖の摂りすぎにより腸内環境が悪化するためです。過去に行われた研究で、パーキンソン病の方に共通する腸内細菌叢の変化が認められるなど、腸内細菌とパーキンソン病との関係は注目を集めています。腸内環境の悪化を招く食生活は、控えるほうがよいかもしれません。
(参考:国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)
一部では、アルミニウムを含む飲み物にも注意が必要といわれています。過去に行われた疫学研究で、パーキンソン病とアルミニウムの暴露に相関関係があると指摘されているためです。アルミニウムの暴露は、パーキンソン病の発症を促進する可能性があると考えられています。
(参考:National Library of Medicine)
低脂肪乳製品も注意したい食べ物といわれることがあります。過去に行われた研究で、頻繁な低脂肪乳製品の摂取はパーキンソン病のリスクを高める可能性があると示されたためです。毎日大量に摂取している方は、食べ方を見直してみてはいかがでしょうか。
(参考:National Library of Medicine)
パーキンソン病の原因や根本的な治療法は分かっていないため、残念ながら確実に予防できる食べ物も現在は判明していません。ここでは、一般的に予防効果を期待されている食べ物を紹介します。
卵や小麦は、パーキンソン病予防のため積極的に摂りたい食べ物といわれています。ドーパミンの材料になるフェニルアラニンというアミノ酸を含むためです。ただし、卵には動物性脂肪も多く含まれるため、過剰摂取しないよう注意が必要です。なお、フェニルアラニンは、カタクチイワシの煮干し、サクラエビの素干し、ビーフジャーキーなどにも多く含まれています。
一部では、牛肉や豚肉もパーキンソン病予防のために活用したい食べ物といわれています。肝機能に働きかけるメチオニンを豊富に含むためです。フェニルアラニンは、肝臓でチロシンに変換されてドーパミンの材料になります。したがって、肝機能への作用を期待できる牛肉や豚肉を活用したいと考えられているのです。
乳製品や大豆も、パーキンソン病予防のため積極的に摂りたい食べ物といわれることがあります。ドーパミンの材料になるチロシンというアミノ酸を含むためです。チロシンは、カツオ節やサバ節などにも多く含まれています。
パーキンソン病の方は、毎日の食事から5大栄養素と食物繊維をバランスよく摂ることが大切です。一般的には、魚、野菜、果物、豆類、未精製の穀物、オリーブオイルを豊富に使う地中海食や海の幸、山の幸を用いた一汁三菜の和食などがすすめられています。
嚥下機能が低下している場合は、食材を煮込んで柔らかくする、食材を細かく刻んで食べやすくする、とろみをつけて飲み込みやすくするなどの工夫も必要です。また、軽くて割れにくい食器にすると、パーキンソン病の方が自分で食事を摂りやすくなります。これらの点にも気を配ってみてはいかがでしょうか。
関連記事:パーキンソン病が治る時代はやってくる?注目される2つの先進的治療
ここでは、パーキンソン病にいい食べ物などを紹介しました。残念ながら、これさえ食べれば予防できる、症状を改善できるといった食べ物は見つかっていません。現在のところ、食べやすさに配慮しながらバランスのよい食事を心がけることが大切と考えられています。食生活が気になる方は、魚や野菜を豊富に使う地中海食や季節の食材を用いた一汁三菜を取り入れてみてはいかがでしょうか。
監修者
花尾 奏一 (はなお そういち)
介護主任、講師
<資格>
介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
<略歴>
有料老人ホームにて10年間介護主任を経験し、その後「イキイキ介護スクール」に異動し講師として6年間勤める。現在は介護福祉士実務者研修や介護職員初任者研修の講師として活動しているかたわら、スーパー・コート社内で行われる介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成や試験官も務めている。