コラム
「パーキンソン病が進行するとどうなる?」などの疑問を抱いていませんか。
パーキンソン病が進行すると介助を必要とする状態になりますが、現在では適切な治療を受けることで、長期にわたり通常の生活を継続できるようになっています。
ここでは、パーキンソン病の概要、症状などを紹介するとともに進行度合いや進行度合い別の治療法などを解説しています。パーキンソン病についての理解を深める参考にご活用ください。
目次
パーキンソン病は、中脳にある黒質のドーパミン神経細胞が減少することで、生成されるドーパミンが不足してさまざまな症状が現れる病気です。ドーパミンは、運動機能の調整などに関わる神経伝達物質です。したがって、パーキンソン病になると、運動機能を調節するための脳の指令を筋肉にうまく伝えられません。
これにより、次の運動症状が引き起こされます。
【運動症状】
運動症状の特徴は、右半身と左半身の症状が対称ではないことです。体の両側に症状が現れる場合も、基本的には左右差があります。また、精神症状などの非運動症状が現れる点も特徴です。以上を基本としますが、具体的な症状は患者さんにより異なります。
現在のところ、パーキンソン病の根本的な治療法は見つかっていません。
しかし、薬物療法や運動療法などで、症状を緩和することは可能です。適切な治療を受ければ、介護に頼り切らず生活できる期間を延ばせます。
パーキンソン病の発症年齢は50~60代に多いですが、40歳以下でも稀に発症することがあります。このようなパーキンソン病を若年性パーキンソン病といいます。65歳以上の有病率は1%程度です。高齢者に多いため、高齢化の進行とともに患者数が増加すると予想されています。
パーキンソン病の症状は、大きく運動症状と非運動症状に分かれます。それぞれの主な症状は次のとおりです。
代表的な運動症状は次のとおりです。
【代表的な運動症状】
これらの症状を4大症状といいます。次に、各症状について詳しく解説します。
振戦はふるえを意味します。手、足、顎など、さまざまな部位で生じます。パーキンソン病で起こる振戦の特徴は、右半身と左半身で震えの現れ方に差があることと安静にしているときに生じることです。つまり、椅子に座ってリラックスしているなど力を抜いているときに現れて、何かしらの作業を始めると治まったり軽くなったりします。
動作緩慢とは、これまでスムーズに行えていた動作が遅くなることです。また、表情が乏しくなり、言葉の抑揚もなくなります。字をうまく書けなくなる、書き進めるに従い字が小さくなることもあります。歩く姿勢が前傾になり、歩幅が小さくなる点も特徴です。症状が進行すると、第一歩目を出しにくくなることがあります。
筋強剛とは、筋肉が緊張している状態です。手足をスムーズに動かしにくくなります。特徴は、主治医などの他者が患者さんの関節を動かそうとすると、鉛の管を曲げ伸ばしするような抵抗を感じたり歯車が噛み合うようなガクガクとした抵抗を感じたりすることです。しかし、患者さん自身がこれらの症状に気づくことは通常ありません。
体が傾いたときに、重心を反射的に移動して、バランスを保つ働きを姿勢反射といいます。姿勢反射障害は、この機能が障害された状態です。体のバランスを保てなくなるため、歩いているときや立ち上がるときなどに転倒しやすくなります。パーキンソン病を発症後、数年経過してから現れることが一般的です。
代表的な非運動症状は次のとおりです。
代表的な非運動症状 | 詳細 |
精神症状 | 抑うつ、不安、妄想、幻覚、関心の低下、認知機能障害など |
自律神経障害 | 便秘、頻尿、尿失禁、起立性低血圧、多汗、性機能障害など |
睡眠障害 | 不眠、レム睡眠行動異常(大声で寝言をいったり暴力をふるったりする)、日中過眠(日中の眠気)、中途覚醒(途中で目覚める)、ムズムズ脚症候群(寝るときに足がムズムズする)など |
感覚障害 | 嗅覚障害、痛み、しびれなど |
その他の症状 | 流涎(よだれを垂れ流す)、疲れやすくなる、痩せるなど |
すべての症状が一人の患者さんに現れるわけではありません。現れる症状や経過は、さまざまです。
一部の非運動症状が、運動症状に先駆けて現れる点もパーキンソン病の特徴です。たとえば、運動症状の前に嗅覚障害や便秘などの症状が現れます。これらの症状だけでパーキンソン病に気づくことは難しいですが、理解しておくと早期発見の手掛かりになりえます。
パーキンソン病は、ドーパミン神経細胞が減少することで、生成されるドーパミンが不足し、さまざまな症状が現れる病気です。残念ながら、ドーパミン神経細胞が減少する正確な理由は分かっていません。現在のところ、遺伝や加齢といった要因で、神経細胞の中にαシヌクレインというタンパク質が凝縮・沈着することにより異常が生じると考えられています。
パーキンソン病は、散発的に発症する(遺伝しない)孤発性と血縁者に同じ病気が認められる家族性に分かれます。孤発性の原因は不明ですが、遺伝的要因に環境的要因が重なり発症すると考えられています。遺伝的要因だけで決まるわけではありません。環境的要因として、加齢や生活習慣などがあげられます。加齢はとくに重要な環境的要因です。
家族性の発症には、特定の遺伝子異常が関わっています。
ただし、家族性には複数の種類があり、複数の遺伝子異常などが発症に関わっている可能性があります。
すべてが解明されているわけではありません。家族性の割合は、パーキンソン病患者全体の5~10%程度と考えられています。
パーキンソン病の診断は、問診からスタートします。確認される症状をもとに他の病気を除外し、パーキンソン病が疑われる場合は画像診断や臨床検査を行います。ただし、CT検査やMRI検査、血液検査などで、パーキンソン病特有の異常が見つかるわけではありません。これらの検査は、基本的に他の病気の可能性を除外するために行います。
また、パーキンソン病が疑われる場合は、L-ドパ(レボドパ)製剤などの治療薬を用いて、症状の改善状況を確認します。L-ドパ製剤は、脳でドーパミンに変化する薬です。
上記の結果をもとに、パーキンソン病であるかを診断します。ただし、症状の現れ方などには個人差が大きいため、簡単に診断できるわけではありません。
参考に、パーキンソン病の診断で行われる検査を紹介します。
名称 | 概要 |
頭部CT、MRI検査 | 頭部を対象とするCT検査、MRI検査です。パーキンソン病とよく似た症状を現す別の病気でも異常を示す場合があります。 |
ダットスキャン | ドーパミン神経細胞がどれくらい障害されているかを確かめる検査です。 |
MIBGシンチシンチグラフィー | 心臓の交感神経の障害などを確かめる検査です。 |
パーキンソン病は徐々に進行する病気です。進行度合い(重症度)は「ホーエン・ヤール(Hoehn-Yahr)重症度分類」と呼ばれ、以下のように分類されます。
Hoehn-Yahr重症度分類
0度 パーキンソニズムなし
1度 一側性パーキンソニズム
2度 両側性パーキンソニズム
3度 軽~中等度パーキンソニズム。姿勢反射障害(姿勢保持障害)あり。日常生活に介助
不要
4度 高度障害を示すが、歩行は介助なしにどうにか可能
5度 介助なしにはベッド又は車椅子生活(引用:厚生労働省)
パーキンソニズムは、右半身と左半身で左右差のある安静時振戦を認め、動作緩慢、筋強剛、姿勢反射障害のうち1つ以上が存在する状態です。一側性パーキソニズムは体の片側のみのパーキソニズムと考えればよいでしょう。
また、「生活機能障害度」でも進行度合いを評価します。
生活機能障害度
1度 日常生活、通院にほとんど介助を要しない。
2度 日常生活、通院に部分的介助を要する。
3度 日常生活に全面的介助を要し、独立では歩行起立不能(引用:厚生労働省)
ちなみに、ホーエン・ヤール重症度3度以上かつ生活機能障害度2度以上の方は、難病医療費助成制度の対象です。
関連記事:パーキンソン病が進行する流れと注意しておきたい運動合併症
現時点で、パーキンソン病の根本的な治療法は見つかっていません。治療の主な目的は、現れている症状を軽くすることです。ここからは、初期の治療と進行期の治療について解説します。
パーキンソン病の治療は、薬物療法と運動療法を組み合わせて行います。薬剤を服用していても、自宅にこもっていると筋力や体力は低下してしまいます。有酸素運動に取り組んで体力を維持したり、ストレッチに取り組んで関節可動域を維持したりすることが大切です。
薬物療法では、主にL-ドパ製剤とドーパミンアゴニスト(ドーパミン作動薬)が用いられています。L-ドパ製剤は脳内でドーパミンに変化する薬剤、ドーパミンアゴニストはドーパミン受容体を刺激してドーパミンの働きを強くする薬剤です。L-ドパ製剤は効果が高い一方で持続時間が短い(濃度が変動しやすい)、ドーパミンアゴニストは持続時間が長い(濃度が安定している)特徴を備えます。ドーパミンアゴニストは、L-ドパ製剤の欠点を補える可能性がある薬剤です。薬剤の選択は、症状や効果、副作用などを踏まえて行われます。一般的に、薬物療法を開始してから3~5年程度は、1日中、安定した状態を保てるといわれています。
薬物療法を開始してから3~5年が経過すると、薬剤を服用していても急に体を動かしにくくなったり(=ウェアリングオフ)、薬剤を服用すると体が勝手に動いてしまったり(=ジスキネジア)する運動合併症が起こることがあります。
上記の運動合併症に対しては、薬剤の用量を調整したり薬剤を変更したりして対処します。たとえば、体が急に動かなくなる場合は、L-ドパ製剤から持続時間が長いドーパミンアゴニストに変更する、L-ドパの分解を抑えるCOMT阻害薬を併用するなどが考えられます。
また、パーキンソン病が進行すると、腸の働きが悪くなり薬剤を吸収しにくくなることがあります。このようなケースなどでは、外科的療法を検討します。一例としてあげられるのが、脳に小さな電極を埋め込み電気刺激を加えることで症状の改善を目指す脳深部刺激療法(DBS)です。運動合併症や薬剤が効きにくい振戦の軽減などを期待できます。あるいは、ポンプとチューブで腸にL-ドパを直接入れる経腸療法を行うこともあります。
ここからは、パーキンソン病の進行を少しでも遅らせるため、取り組みたい対策を紹介します。
パーキンソン病の進行を遅らせるため、体を大きく動かすことが大切です。たとえば、立った状態で両腕を上げて背筋を伸ばす、寝転んだ状態で体幹を捻る、口を大きく空けて閉じる、頬を膨らませてからすぼめるなどの運動が考えられます。パーキンソン病の方を対象とするアプリを利用して体操を行うこともできます。家事をする、出かけるなど、これまでどおりの日常生活を心がけることも大切です。
明るく前向きに過ごすことも、パーキンソン病の進行を遅らせるために大切です。落ち込んでいるとドーパミンは減ってしまいます。
また、患者さん自身のやる気と運動機能の関連も指摘されています。頑張っている自分に気づいて意欲を高めるとよいかもしれません。
ご家族など、周囲の方のサポートも重要です。ちょっとした声掛けで、患者さんの気分を明るくできることがあります。
できることから、できる範囲で、取り組んでみてはいかがでしょうか。
ここでは、パーキンソン病が進行するとどうなるかなどについて解説しました。残念ながら根本的な治療法は見つかっていませんが、適切な治療を受ければ介護に頼り切らず生活できる期間を延ばせるようになっています。基本の治療法は、薬物療法と運動療法です。薬剤の効きが悪くなった場合などは外科的療法を検討します。
症状や経過は、患者さんで大きく異なります。主治医と協力しつつ、患者さんに適した治療を模索していくことが大切です。
スーパー・コートでは、有料老人ホーム、高齢者住宅の運営・管理を行っており、パーキンソン病専門住宅もございます。パーキンソン病について困っていることや、不安なことがある場合は、ぜひ一度ご相談ください。
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監修者
花尾 奏一 (はなお そういち)
介護主任、講師
<資格>
介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
<略歴>
有料老人ホームにて10年間介護主任を経験し、その後「イキイキ介護スクール」に異動し講師として6年間勤める。現在は介護福祉士実務者研修や介護職員初任者研修の講師として活動しているかたわら、スーパー・コート社内で行われる介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成や試験官も務めている。