コラム
セルフネグレクトとは自分自身の健康や安全に対する無頓着や無関心が原因で、自分自身を放置し自己管理ができなくなってしまう状態のことを指します。誰にでも起こり得る可能性がある反面、家族や周囲から孤立してしまう原因にもなるため、セルフネグレクトへの理解が必要です。
この記事ではセルフネグレクトの概要や原因、該当するかどうかのチェックリストを紹介します。対処方法についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
ネグレクトとは「無視する」「世話を怠る」という意味の言葉です。
セルフネグレクトとは、何らかの事由によって、普通の生活を維持するために必要なさまざまなことを行う意欲や能力を失ってしまい、自身(セルフ)の健全な生活や身の回りの安全を損なってしまうこと、そこに至るまでの行為のことです。
セルフネグレクトは1人暮らしの高齢者に多いとされていますが、年齢に関係なくセルフネグレクトに陥る例が見られます。
その原因は様々あり、認知症やうつ病といった精神的な疾患が原因となる場合もありますが、配偶者や親に先立たれたことがきっかけで親族や近隣住民との付き合いがなくなって孤立したり、職を失ったり、身体を動かすのがつらくなったり、といったきっかけがセルフネグレクトにつながる場合もあります。
浦安市で2020年に行われた調査報告の中で公表された、年代・性別にわけた「セルフネグレクトが疑われる市民の属性」を見ると(※表1)、年代別では40代後半が9.8%で最も多く、次いで80代前半(9.0%)、60代前半(8.8%)の順で続いており、性別では男性の60代前半(10.2%)、女性の40代後半と80 代前半(いずれも10.5%)で1割を超えて多くなっていることがわかります。
表1
また、2015年2月7日に厚生労働省老人保健健康増進等事業の一環で行われた調査では、より属性を絞った報告が行われ、「複合問題・近隣影響あり型」(多くの問題や近隣とのトラブルなどが疑われる属性)では、認知症自立度および寝たきり度においてより重度の人が多く、精神疾患がある人も多い傾向がみられるとされました。(※表2)
表2
高齢者のセルフネグレクト事例の類型化と孤立死との関連より引用
より多くの問題が重なっている「複合問題(近隣影響あり・なし)型」と「不衛生・住環境劣悪・拒否型」では独居者が多いこと、なかでも「複合問題・近隣影響あり型」は本人の不衛生や住環境の劣悪さなどが近隣住民の生活にも影響を与えているという性質上近隣住民との距離が密接である共同住宅居住者がやや多いことなどが示されました。
参考:セルフネグレクト対策に関する調査分析報告書(浦安市)
:高齢者のセルフネグレクト事例の類型化と孤立死との関連(斉藤雅茂 岸恵美子 野村祥平)
セルフネグレクトはその行動自体が問題視されることが多いのですが、セルフネグレクトに陥ることによって懸念される生活に関わるリスクも多くあることを知っておかねばなりません。
さまざまな意欲が消失してしまうので、外に出かけること、誰かと話すこともできなくなります。食事や掃除、身だしなみや身の回りの環境にも興味がなくなることで、さらに他人との距離が大きくなることがあります。
その結果、家族や周囲から孤立してしまうセルフネグレクトの人が増えています。
前述のように、周りから孤立してしまうことに加えて、セルフネグレクトは認知症やうつ病といった精神的な疾患が原因となる場合が多いので、症状が悪化すると、生活ができなくなり、命の危機にさらされることもあり得えます。
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セルフネグレクトの原因は、大きく分けて次の4つです。
セルフネグレクトに陥る原因の一つとしてまず挙げられるのが、事故や病気による身体機能の低下です。
今まで当たり前に行ってきた生活が失われることは、精神的にも大きなダメージとなります。それによって趣味や興味を持つ意欲がなくなっていくことで、自暴自棄にまで陥ることもあります。
また、加齢による身体機能の低下もセルフネグレクトに陥る原因の上位に挙げられます。
高齢になると認知症のリスクも高まります。高齢者にセルフネグレクトが多いのはそのためです。
普通の生活をする意思があるにも関わらず、通常の生活が満足にできない状態が続くことによってセルフネグレクトへと発展してしまうのがこのケースです。
高齢になると、さまざまな環境の変化が訪れます。社会人であれば退職、女性であれば子供の巣立ちも人生の大きな転機です。今まであった人との繋がりが失われることで、社会との接点がどんどん希薄になる可能性が高くなります。
社会との繋がりがなくなると、セルフネグレクトが進んでいてもそれに気づいて貰うことができず、症状が悪化してしまう恐れがあります。
また、転機の中でも配偶者との死別や離婚などは環境だけでなく精神的にも大きなダメージを受けることで、生きる活力を見いだせなくなり、次第に身の回りのことに興味がなくなり、セルフネグレクトに陥るケースもあります。
経済的に裕福でない状態にある人の中には、国民健康保険などに未加入のケースも多く見られます。その場合、医療費が全額自己負担になりますが、経済的に厳しい状況ですので医療費が払えずに病気やケガを放置してしまうこともあります。
その結果、身体能力の低下に繋がりセルフネグレクトが進行してしまう要因となります。
また、経済的に余裕がないことで趣味を満足に楽しめないことで意欲や気力が失われることも、セルフネグレクトに陥るきっかけとして挙げられるでしょう。
家族から身体的、精神的虐待を受けているとセルフネグレクトに陥る可能性がとても高くなります。暴力や暴言を受け続けることで、自分が無価値だと思うようになったり、生活をする意欲を失なったりします。
家族による虐待の中でも加害者が自分の子供の場合には、子供を育てた自分自身を責めてしまうことも多く、助けを求めることができずに悪循環に陥ることがあります。
セフルネグレクトに陥った場合、以下のような言動がよく見られます。
セルフネグレクトかどうかの判断の基準として、東邦大学が提供している「セルフネグレクトサインシート」を活用するのもよいでしょう。
スクリーニングシートは「本人の状況」「家屋及び家屋周囲の状況」「社会との交流」についてチェック形式で記入するものです。
支援団体や施設への相談の際にも活用できますので、セルフネグレクトが疑われる場合にはチェックしてみるとよいでしょう。
※画像引用:「アセスメント・支援ツール」(東邦大学)
スクリーニングシートはこちらからダウンロードできます(別ウィンドウが開きます)。
「アセスメント・支援ツール」(東邦大学)
セルフネグレクトへの対処方法は、主に次の5つです。
セルフネグレクトの場合、人や社会との繋がりを頑なに拒んでいるケースがよく見られます。そこには「誰も自分を理解してくれない」「自分を認めてくれない」といった思いが根底にあることも少なくありません。
そのような場合には、どうして今の状況に陥ってしまったのか、サポートを受け入れることはできるのかといったことを話し合うことで、心を開いてくれることもあります。
話を聞く際には怒ったり相手を否定したりする言葉を避けて、穏やかに話しやすい雰囲気を作ることを意識しましょう。
介護認定を受けている場合には、訪問看護や訪問入浴などの介護サービスを受けることができます。さまざまな事由によって、病気の治療や身の回りのことが疎かになっているセルフネグレクトの方には、介護サービスを利用するのもひとつの方法でしょう。
ただし、介護サービスはあくまでも「介護」を目的としていますので、身の回りの世話や汚れた部屋の掃除、食事の準備といった家事サービスは行って貰えません。
高齢の場合には、介護サービスに加えて高齢者住宅などの施設への入居を検討するのも良いでしょう。
常に清潔に保たれた居住空間はもちろんのこと、栄養バランスのとれた食事や趣味を楽しむ施設、温浴施設のある高齢者住宅もあります。
身の回りのことや自分への興味を失ってしまった方は、こうした施設で新たな楽しみを見つけることでセルフネグレクトから脱却できることもあります。
関連記事:介護老人福祉施設とは?入所方法や費用、メリットデメリットを解説!
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高齢者でセルフネグレクトの状況にある方は周りの助けやサポートを拒む方も少なくありません。そのような場合には、無料で活用できる「地域包括支援センター」に相談してみましょう。地域包括支援センターは全国の自治体に設置されており、誰でも相談できる窓口があります。
地域包括支援センターとは、介護・医療・保健・福祉などの側面から高齢者を支える「総合相談窓口」で、セルフネグレクトの方が受けられるサービスや制度について案内してくれます。
実際に要介護状態にあるにも関わらず、介護認定を取得していない人に要介護認定の申請を行ってくれますので、介護認定を受けたい場合は相談してみると良いでしょう。
お住まいの地域の地域包括支援センターは厚生労働省のページの中の「全国の地域包括支援センターの一覧(都道府県のホームページへリンク)」から調べることができます。
関連記事:要介護認定とは?要支援と要介護の違いや認定の申請方法について紹介
高齢者で認知症を患っている場合や精神疾患を患っている場合には、病気が進行するにつれて判断力や身体能力が低下し、セルフネグレクト状態になることがあります。
その場合には、医師に相談し病気としっかりと向き合いましょう。
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身体機能が低下し、身の回りの家事が難しくなってしまった場合は家事代行サービスを利用するのもひとつの方法となります。
身の回りが整うことで、セルフネグレクト状態から脱却できるきっかけになります。
特に、家族や親族、周囲の人との距離をおいている方の中には、今までの自分を知らない他人であればサポートを依頼しやすいといった方もいます。
生活環境や衣服が綺麗になり、清潔で健康的な状態になることで、セルフネグレクトの状態の改善が期待できます。
ご親族のセルフネグレクトが心配であれば、充実した設備の整った高齢者住宅へのご入居をご検討されてみてはいかがでしょうか。
スーパー・コートでは近年増加している認知症の方にも安心して生活していただくために、全施設において認知症ケアへの取り組みをおこなっております。五感への刺激を、回想療法や音楽療法などの医療法を通し、楽しくも専門的におこない、脳の活性化や心身の癒しにつなげる取り組みです。
同時に介護と医療の連携により”認知症の症状を改善する研究”もおこなって参りました。 そのうちの2つの研究成果を「日本認知症ケア学会」において発表し、石崎賞を受賞致しました。
ご入居者の日々の健康管理は、月2回の訪問診療と24時間緊急対応をするクリニックと契約をしております。また、急変時の検査受診、緊急搬送、入院に関しても、当社の経営理念・介護方針を理解し優先的に対応していただける近隣の病院と提携をしております。
スーパー・コートには、看護職員が日勤(9:00〜18:00)常勤しており、定期的な訪問診療も行っています。また、処方されたお薬を薬剤師が配達してくれ、お薬の管理から相談も行っております。
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実際に生活をされるお部屋の環境はとても気になる部分ではないかと思います。スーパー・コートの居室は、照明、カーテン、レースが備え付けられています。
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監修者
花尾 奏一 (はなお そういち)
介護主任、講師
<資格>
介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
<略歴>
有料老人ホームにて10年間介護主任を経験し、その後「イキイキ介護スクール」に異動し講師として6年間勤める。現在は介護福祉士実務者研修や介護職員初任者研修の講師として活動しているかたわら、スーパー・コート社内で行われる介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成や試験官も務めている。